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ゲンさん奮闘記

【episode1】

「あ、いたいたっ、大ちゃ~ん!!」

 それは晴天の日曜日。
 いつものように午前の分の練習試合を終えたルイ君たちと第一高校の玄関先で話していると、聞くからに若い女の子の声がその場に響いた。
 その声に、飲み物を口に運んでいた大樹君がいち早く反応を見せる。

「あ……明日香!? おまっ、何でこんなトコに……」
「へへっ、お母さんがちょうどこっちに用事があったから、乗っけてもらっちゃった! 久し振りに大ちゃんのバスケやってるとこ見たくって!」
「乗っけてもらっちゃったって――うわっ!?」

 突然登場したその女の子は、一目散に大樹君に駆け寄るとガバッ!! とその胸に抱きついた。
 綺麗な長い髪をツインテールに結っている、笑顔がふんわりの女の子。
 着ている制服から察するに、ここ第一高校の生徒さんじゃないのは分かる。
 なんとも無邪気な少女の姿にほんわか心が癒されるのを感じながら、私は大樹君にそっと問い掛けた。

「えっと、大樹君。この子は……お知り合い?」
「えっ、ああ、突然すみません美咲さん! 俺のご近所さんで幼馴染の……ほらっ、明日香! 引っ付いてないでちゃんと挨拶しろっ!」
「とか言いつつ顔緩んでますよ、ゲンさん」
「もう名前言っちゃってるしねぇ? あ~あ、暑っ苦しい~」
「ルイ、お前にだけは言われたくないからね!!」

 幼馴染。なるほど。
 陽輔君とルイ君のあまりやる気のない突込みが交わされる中、私は自身にあまり馴染みのないそのフレーズを1人噛み締めていた。

 私も小さい頃こそ近所の年下の子達とはよく遊んだものだが、今となっては殆ど交流はなくなっている。
 大樹君の面倒見のよさは、こんなところでも証明されるんだなぁ……
 勝手に納得していると、私は不意に、強い視線を感じて慌てて我に返る。

 じぃ――――。

「……え、と」
「……」

 私とほぼ同じくらいの背から注がれるその視線の主は、他ならぬその女の子。
 まるで品定めされるようなその視線に居心地悪さを覚えながら、沈黙に耐え切れなくなった私は「あっ、あの!!」とやけに元気のいい口調で先手を打つことにした。だって何か測られてる! 測られてるもの!!

「初めまして! 私、高屋美咲と申します……はは」
「……貴女、見たことない。どこの高校? 南校?」

 ――はい、撃沈。
 ようやく口を開いた明日香ちゃん(だよね?)からのその一言。
 私はふらりと衝撃を受けていると、パシッ! と目の前に少女の頭をはたく音が聞こえた。

「いった~! 何すんの大ちゃん!!」
「何すんのはお前だ馬鹿!! 美咲さんはM大の2年生、お前よりずっと年上だっつーの!!」
「――えっ!?」

 もともと大きな瞳をクリッと見開いて驚いてくださる明日香ちゃん。いいんだよ~慣れてるからね。あは。
 年上と聞いて少ししおらしくなった明日香ちゃんは、何やら警戒心を解いてくれたのか笑顔を覗かせながら自己紹介をしてくれた。

「へえ、じゃあ明日香ちゃんは東部高校の1年生なんだ~」
「はい。だからなかなか大ちゃんのバスケの試合見ることが出来なかったんですけど、今日は偶々部活が休みになったので!」
「……だってさ。良かったねぇ~“大ちゃん”?」
「昼過ぎの試合は全てのボールを貴方に回すように他のメンバーにも言っておきますよ、“大ちゃん”」
「コラッ、2人とも! 先輩をからかうのは止めなさいっ!!」

 わざとらしく明日香ちゃんの呼び真似をして楽しそうにしているルイ君たちに、顔を真っ赤にして反論している大樹君の姿。

 ――ああ、そういうことか。
 目の前に広がるとっても分かり易い光景に、私は心が菩薩様のように微笑ましくなってしまう。
 幼馴染とはいえ市を跨いで休日に応援に足を運ぶなんて、理由はひとつしか考えられないもんね。
 そこまで考え至ると、私はなんの躊躇いもなく素朴な疑問を2人にぶつけていた。

「ふふっ、ね。明日香ちゃんと大樹君は付き合ってどのくらい経つの?」

「え?」
「ッ、へ!?」
「(わ、美咲さん直球!!)」
「(まぁそうなるわな)」

 4人各々の反応。
 取り巻くその空気の変化に、私は「……ん?」と首を傾げる。

 目を丸くしている明日香ちゃん。
 顔を青くして慌てふためいている大樹君。
 噴き出しそうになるのを必死に堪えているルイ君に、最早我関せずの陽輔君。
 なんにせよ空気が完全に固まってしまったこの状況に、私も次第に冷や汗が滲むのをを感じる。

 あれ……もしかして私、
 とんでもない地雷を踏んでしまったのですか?

 最近大学の親友2人に“地雷踏襲マシーン”という異名を付けられたのを思い出し「え、と……あれ?」と恐る恐る口にする私に、大樹君は真っ青だった顔色をいつの間にか真っ赤に染め上げて口を開いた。

「ち、ち、違ッ!! 俺たちは――」
「私と大ちゃんは生まれた時からの幼馴染ですよ! だから彼是15年のお付き合いです!!」
「はい?」
「「(そうきたか)」」

 輝くような笑顔でそう答える明日香ちゃんに私は思わず間抜けな声を上げてしまう。

「いや、そういう意味じゃなくてね、」と口にしそうになったが、間髪いれずに「そうっ! そうなんです俺たち15年来の付き合いなんですッ!!」と返答する大樹君の必死な表情を目にした私は全力でその口を閉じた。

 大樹君の瞳から涙がキラリと光って見えるのは……見間違いということにしておこう。うん、それがいい。

 そんな私の隣からは、呆れることすら面倒くさいと言わんばかりの2人の溜め息。
 先ほどからやけに反応が冷めているなぁと思っていたが……なるほど。
 ルイ君たちはもうこの“幼馴染たち”の姿に見飽きているのね。

「ねーねー、大ちゃん。次の試合ではさ、シュート1つ決める毎に私の名前を呼んで手を振ってね!」

 そんな何とも言えない空気を一蹴したのは、明日香ちゃんが告げたなんとも可愛らしいその言葉。

「「(ブッ)」」
「……はあっ!? 何でそんなことしなくちゃ、」
「だって!! 大ちゃんがシュート決める度に他の女の子たちがキャーキャー騒ぐんだもん!“明日香1人が応援していればそれで十分だ”って、前に大ちゃんも言ってたでしょー!?」
「……」

 ぷうっと頬を膨らませてそう告げる明日香ちゃんに、「言ったけど……だからってそれは無茶苦茶過ぎないか?」と言って宥めるように頭を撫でる大樹君。
 その光景を見ていると……なんだろう。
 肩の力がシュルシュルと抜けていく気がして。

「無茶苦茶じゃないよ、それくらいしないと牽制にならないもん! 大ちゃんのこと応援するのは、私の役目なのに……」
「そんな顔すんなって。心配しなくても、お前の声援はちゃんと聞こえてるからさ」
「……本当?」
「ん、本当」

 ……うん。ね。
 なんていうか、こぉ……ね。

 何とも言えない2人の世界を作り上げている若い2人がとても遠くに感じる。

 そして……今の私の顔はきっと、隣のルイ君と陽輔君と同じ表情をしているんだろうなって思った。
 それはつまり。

お前ら、いい加減くっつけば?

(美咲さん、そろそろ試合始まるから中入ろ~?)
(美咲さん、午後の試合も見ていくんですか? 悪いですね、こんな野良犬の為に)
(酷ッ! なんか劣化してるし!!)
(あ、ううん。えっと……あの2人は?)
((放っておくに限る))
(ハモった!)